私は野球のイチロー選手のファンです。
彼が圧倒的な実力で日本の野球界やメジャーリーグの記録を塗り替えるところをリアルタイムで目撃していました (テレビですが)。
ヒットやセーフティバントで出塁する能力や、盗塁、さらには強肩を活かした守備力は、素人ながらに感銘を受けたものです。
彼が打撃や外野の守備について語れば、その世界を極めた人の言葉として影響を受けます。
しかし同じ野球でも、たとえば「変化球の投げ方」とか「ホームランを量産する方法」であれば、面白いですが極めた人の言葉としてはとらえないでしょう。
まして「カレーの作り方」とか「天体観測のコツ」であれば、あまり真剣にはとらえられません。
私はイチロー選手を、硬式野球の打撃、守備、走塁の専門家だと認識しているからです。
なぜか日本人は、何かを極めた人の言うことは何でも正しいと思う傾向が強いと感じますが、明確に専門家としての実力が証明されたことと、そうでないことは分けて考えるべきだと思います。
それでは「総理大臣」や、それぞれの省庁における「大臣」は、何の専門家でしょうか?
例えば文部科学大臣がノーベル賞を獲る必要は無いですし、農林水産大臣がトマトを上手に育てることができなくても良いと思います。
これらの大臣は国民の代表として選挙で選ばれた政治家が就任することがほとんどですが、政治家は多数の票や支持を集めることで選ばれるので、能力的に証明されているのは選挙に強いことだけです。
政策に詳しいことは期待したいですが、どの政党が政権を担っている時でも大臣は専門性で選ばれているようには見えません。
そもそも「国民の代表」として選ばれているので、私個人の意見としては、素人目線のおおまかな方向を決められたら充分なように思います。
それ以上を期待できるようにも見えません。
(就任した後にレクチャーを受けるようですが、短期間勉強しただけで熟知できるのであれば、専門家はみんな失業です)
それでは、それぞれの省庁で専門性を発揮して、具体的に行政を運営していているのは誰でしょうか?
私の知識では、これは国家公務員試験により採用された官僚の方々が担っています。
特に国家公務員の一種試験で採用されたキャリアと呼ばれる人達(有名大学出身者が多い)は、それぞれの省庁の意志決定を担っています。
もちろん官僚の人達も、心臓外科手術や地雷除去・キュウリの栽培などが上手だったりする必要はありません。
そのような専門家が育ちやすいように予算を与えたり、適切に専門家を配置することが専門だと私は理解しています。
これはとても重要なことで、日本の企業が世界を席巻していた高度経済成長期には、「日本の官僚は世界一優秀」などと言われていました(今となっては信じがたい話ですが)。
ところで今回の話の主題は、実はクルーズ船の新型コロナウイルスの感染拡大の問題で、岩田教授が動画で指摘されたことについてです。
削除されてしまいましたが、ご覧になった方も多いでしょう。
ちなみに動画を受けて色々な新聞の見出しに「政府を批判した」とありましたが、動画を何度拝見しても、彼が批判しているのは「厚生労働省」であって政権ではありません。
そもそも素人であることが判りきっている大臣や政治家に、感染防御や公衆衛生の専門知識があるとは最初から期待していないでしょう。
大臣や政治家が決めるべきは、「クルーズ船の乗員は、感染していないことが確認できるまで下船させない」くらいまでです。
実務や具体的な作戦は、官僚や専門家の領分です。
そして動画と状況を見る限り、クルーズ船内で乗客を個別に隔離後も、感染拡大は続いたようです。
つまりクルーズ船内の感染防御や公衆衛生としては、岩田教授が指摘するように完全に失敗している訳です。
岩田教授の指摘とは異なり、実際には感染防御の専門家や公衆衛生の専門家が協力していたそうですが、失敗しているのは明らかなので、選ばれた専門家の能力が不足していたか、充分に実力を発揮できない状況を作ってしまったことに問題があるのでしょう。
これは岩田教授の指摘どおり厚生労働省の失敗で、つまり専門家の選定や配置・作戦を考えた官僚の方々の失敗だと思います。
「従事された方々は、限られた状況の中で必死に頑張っている」というご意見は理解できますが、必死に頑張ってくださる人々を危険に曝さないようにしたり、充分に能力が発揮できるように作戦を立てるのは官僚(上の意見されている方はキャリア官僚ではなく、専門家として招聘されて短期的に厚労省に所属しているようです)の責務だったはずです。
色々と批判されているようですが、この点で岩田医師のご指摘は非常に有意義で正しいと思います。
(新型コロナウイルスの知見としても、動画が無ければ潜伏期間が非常に長い可能性を排除できませんでした。不十分な管理体制が明らかにならなければ、貴重なデータが間違って伝わった可能性が高いです)
今回、日本は新型コロナウイルスを深刻な脅威と見なして、全力で封じ込めようとして失敗しました。
新型コロナウイルスは、深刻ですがエボラウイルスやSARSレベルの脅威では無いと思われます。
しかし将来、新型コロナウイルスと同じかそれ以上に封じ込めることが難しく、しかもエボラウイルスくらい恐ろしい病原体で同じ状況が発生する可能性もあるでしょう。
岩田医師の動画も、厚生労働省を揶揄する目的ではなく、今の惨状をなんとかしなければならないということを悩まれた末のメッセージでした。
今回の出来事から学ばなければ、検疫官や医師、必死に頑張って下さった人達の労力や犠牲が無駄になります。
例えばクルーズ船が感染防御や隔離に向いていないのは明らかなので、陸上に数千〜数万人が隔離できる保養施設を整備するなども一案でしょう。
岩田医師も含めて、多くの関係者から情報や意見を集めながら対応方法を考えて欲しいです。
世界一優秀な(?)日本の官僚(特にキャリア)の方々の今後に期待したいところですが・・・・
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