新型コロナウイルスの検査の報道でよく出てくるPCR法について、植物で似たような実験をしていた立場から私なりに解説します。
*私は医学系研究者ではないので、推測が含まれています。
生物は基本的にタンパク質で構成されており、様々な機能を持つタンパク質のおかげで生命現象が維持されます。
遺伝子と呼ばれるタンパク質の設計図は、DNA(大多数の生物)またはRNA(一部のウイルス)という分子でゲノムに書かれています。
下図はDNAゲノムを持つ生き物のタンパク質の作り方です。
「ウイルスのタンパク質」を検出しようとすると、基本的には専用の「抗体」を作らなければなりません。
抗体とは動物の免疫システムの一部で、異物を認識するためのアレです。
新型コロナウイルスだけを認識する抗体を用意するのはかなり大変で、時間も1年くらいは必要でしょう。
抗体でタンパク質を検出するよりも簡単で感度が高い手法が、PCRを利用した方法です。
タンパク質の設計図は、DNAゲノム中ではA(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)という4種類の「塩基」と呼ばれる化合物で書かれています(一つのタンパク質の設計図は数百〜数千文字で書かれていることが多い)。
RNAゲノム中では、Tの代わりにU(ウラシル)が使われますが、基本は同じです。
この4種類の塩基の並びを「配列」と言いますが、新型コロナウイルスのゲノム配列は既に全て決定されており、特有の配列も簡単に判ります。
特有の配列だけを増やす方法がPCRで、配列が検出できれば検体にウイルスが存在するし、検出できなければ「陰性」という判断になります。
理想的な実験条件が決められれば、おそらく1匹のウイルスが含まれているだけで検知できるはずですが、実際には多少似ている別の配列でも効率が悪いながらも増えてしまいます。
そうするとウイルスが入っていなくても、弱いシグナルが出てしまうので、ある程度の数のウイルスが含まれていないと陽性と断定できないでしょう。
PCR自体は、抗体よりもはるかに感度が高く、微量の試料でも検査できます。
しかし逆に言えば、検査に用いる非常に少ない試料にウイルスが含まれていなければ検出できません。
報道を見る限り、新型コロナウイルスの検査はインフルエンザ検査と同様に綿棒で鼻の奥をグリグリとやって、そのサンプルの一部をRT-PCRで検査しているようです。
つまり喉や肺や気管支にウイルスが充満していたとしても、グリグリして獲った検体にウイルスがある程度含まれていなければ「陰性」になってしまうのです。
インフルエンザウイルスの場合、呼吸器または腸管で増えることが判っているそうです。
これは抗体による検査ですが、ある程度感染が進んだ段階でなければ検出できません。
このページによると、発症して12時間以上経過した頃が適切だそうです。
新型コロナウイルスは「新型」なので、どの組織をどのタイミングで調べるかについても手探りの段階なのは容易に推測できます。
新型コロナウイルスの大部分が鼻の奥では増殖せずに、他の部分で増えるというオチもあり得ます。
つまり検査で「陰性」で、後で「陽性」になるのは、検査の不備ではなく、現状では仕方が無いことです。
実際上の意義としては、「鼻の奥でさえウイルスがガンガン増えている人」を見分けて隔離することですね。
これでもクルーズ船内の隔離が上手く行っていれば、一定の効果があったと思います。
ただし、以前に指摘したようにクルーズ船やチャーター機の人達だけを隔離しても、どれくらい意味があるかは不明ですが・・・・。
現状で判明している限りでは、インフルエンザの方が深刻だと思います。
そしてクルーズ船やチャーター機の人達の隔離や検査が十分に機能していたとしても、流行を止めるのは不可能に近いでしょう。
破綻している封じ込めに全力を注ぐよりも、流行することが前提で備えることに注力すべきかと思います。
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