植物の敵と味方 〜転〜 2

植物の敵と味方

アーバスキュラー菌根菌(AM菌)は糸状菌(カビ)で、菌糸の一端は根に感染して、植物細胞の中に樹枝状体という構造を作ります。菌糸の大部分は根の外側の土壌中に広がっており、土壌中からリン酸などの無機養分を集めて、それを樹枝状体で植物に渡して、その見返りに光合成産物を受け取ります。

共生がマメ科植物に限定されている根粒菌とは異なり、AM菌は陸上植物の大部分と共生するという性質があります。AM菌は絶対共生菌であり、植物に共生しないと生きていけないという点も根粒菌とは異なります。根に共生するという以外は、ほとんど接点が無いですね。ちなみにAM菌共生をしない種もあるのですが、そのような例外の1つがシロイヌナズナが属するアブラナ科です。

 

しかしマメ科植物で根粒菌共生が破綻した変異体を解析していく中で、意外な接点が浮かび上がります。なんと一部の変異体では、AM菌共生も破綻していたのです。

さすがに共生の入り口であるNodファクター受容体や、根粒形成・窒素固定などの後期の現象に関わる遺伝子はAM菌共生には関係ないようですが、Nodファクター受容体の下流の遺伝子群はAM菌共生にも必須であり、これらはCommon Symbiotic Pathway (CSPまたは”Signaling”を入れてCSSP)と呼ばれるようになりました。根粒菌共生はマメ科植物が他の被子植物から分岐した7千万年前よりも後に登場したと推測されますが、AM菌共生は化石のデータと分布の広さを考えると、最初の陸上植物が誕生した5億年くらい前まで逆のぼると推測されます。したがってAM菌共生の仕組みを土台として、マメ科植物で根粒菌共生が成立したと考えるのが自然でしょう。

 

AM菌がNodファクターに相当するようなシグナル物質を分泌しているらしいことは、2007年にイタリアのグループによって報告されていました。また2011年に、かってNodファクターを同定したグループが、AM菌の共生シグナルがNodファクターに非常に類似した物質である可能性を報告します。このような状況を考えると、AM菌の共生シグナル(Mycファクター)の受容体はNFR1に類似していると予想できますが、NFR1にもっとも近い遺伝子は防御応答を起動するCERK1なので、矛盾しているように考える人が多かったのでしょう。しかし私達のデータは、そのCERK1がNFR1と同じようにCSPを介して共生応答を起動する能力があることを示しています。つまりCERK1は、Mycファクター受容体かもしれません。

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