植物の敵と味方 〜序〜 3

植物の敵と味方

基礎的防御応答は、植物細胞の表面でセンサーの役割を果たしている受容体によって起動されます。この中でもっとも有名なのが、細菌の鞭毛を感知するFLS2と呼ばれる受容体だと思います。

鞭毛は泳ぐための装置なのですが、FLS2はフラジェリンと呼ばれる鞭毛タンパク質の中の保存性の高い22アミノ酸の配列(flg22と呼ばれる)を認識します。細菌は進化が早いので、さっさとアミノ酸配列を変更してしまえば良さそうなものですが、この22アミノ酸だけは変更がほとんど利かないらしく、変更してしまうと泳ぐ能力が著しく下がることが知られています。植物病原細菌は気孔や傷口などから侵入しますが、泳ぐ能力が低いと感染力が下がるようです。ちなみにflg22をあらかじめ塗布した植物に、病原細菌の超エリートであるPseudomonas syringae pv. tomato DC3000という凶悪な病原菌をかけても、感染が著しく阻害されることが知られています。つまり基礎的防御応答が事前に発動してしまうと、優秀な病原菌でも感染できないということですね。

 

上述のFLS2は、対細菌用のセンサーです。対糸状菌(つまりカビ)用のセンサーとして中心的な役割を果たしているのがCERK1という受容体です。植物の細胞壁はセルロースという物質で出来ていますが、糸状菌の細胞壁はキチン、細菌の細胞壁はペプチドグリカンで構成されています。防御応答は他人に向けるもので、自分を攻撃するのは論外ですよね? 自己と非自己を区別するのに細胞壁の成分は良い標的なのです。

 

植物のキチン受容体であるCERK1は、明治大学の渋谷直人教授のグループによって発見されました。これはLysM型受容体キナーゼと呼ばれるタンパク質で、細胞外の部分がキチンを感知すると、細胞内のキナーゼという部分が活性化して防御応答を発動させます。

その後にCERK1が細菌のペプチドグリカンも認識していることが示されたり、複数の病原菌がCERK1を回避するエフェクターを使用していたりすることが判明するなど、CERK1の基礎的防御応答における重要性が広く認識されるようになりました。ちなみにコケ植物を解析すると、FLS2は存在しませんがCERK1は持っていますので、基礎的防御応答の歴史としてはCERK1の方が古くから貢献している可能性が高いです。

 

このCERK1なのですが・・・・、なんとマメ科植物が根粒菌を受け入れるためのプログラムを発動させるNFR1とそっくりなのです。

植物の敵と味方 〜序〜 4

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