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ミヤコグサは小さな黄色い花を咲かせる「雑草」です。日本でも北海道から沖縄県まで生えているので、身近な植物のはずですが知っている人は少ないでしょう。牧草として利用する地域もあるそうですが、一般的に役に立つとは認識されていません。日本でさえも注目されていないミヤコグサに注目して、世界中で使用されるモデル植物として整備を始めたのは、デンマークのJens Stougaard博士です。
マメ科植物はダイズやエンドウ、インゲン、ソラマメ、アズキなど、パッと思いつくだけでも色々と重要な作物が出てきます。また食糧としてだけではなく、根粒菌と共生して土壌に窒素栄養を供給する働きもあります。クローバーなどを利用した三圃式農業は社会の時間に習いますよね。私が根粒菌共生の研究を始めた1990年代の終わり頃まで、マメ科植物の研究と言えば上記のような作物を材料とするのが一般的でした。これは当たり前で、役に立たない雑草なんか研究しても意味はありません。しかしマメ科作物は一般的にゲノムが巨大で、しかも研究が難しい倍数体も多く、遺伝子の導入方法も実用的なものが無いという状況でさっぱり研究が進みませんでした。遺伝子導入できなければ、注目した遺伝子が実際に大切かどうか調べることも難しいのです。当時、研究室レベルの人数で遺伝子導入が可能だったのは西洋ミヤコグサ(4倍体)だけでした。企業では膨大な労力をかけて「遺伝子組換えダイズ」が作られていましたが・・・普通は無理です。
4倍体の西洋ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. corniculatus)では色々と解析が難しいのですが、岐阜県で採取されて保管されていたミヤコグサ(Lotus japonicus)が2倍体であることに着目して、1990年代の中盤くらいからJens博士がモデル植物としての整備を始めました。Gifu B-129 と名付けられた岐阜県で採取された系統は遺伝子導入も可能だったのですが、蛍光灯で栽培する室内で開花させることが難しく、次世代の種が取れるまでの時間も長いという欠点がありました。そこで早くからJens博士の試みの重要性を理解していた基礎生物学研究所の川口正代司博士が日本中を探し回って、蛍光灯でも開花・結実して世代時間も短いミヤコグサ(MG-20系統)を宮古島で見つけたのです。その後にかずさDNA研究所がMG-20系統でミヤコグサゲノムを解読したこともあり、長年謎であった根粒菌共生メカニズムの解明が大きく進みました。またミヤコグサで明らかになった知見を元に、ダイズなどの作物における仕組みも明らかになってきました。まだ農業的に「社会の役に立つ」というレベルには達していませんが、将来に根粒菌共生で革命的な作物などができるとすれば、それは「役に立たない雑草」であるミヤコグサの貢献無しには語れないでしょう。ダイズやエンドウにこだわって作物だけで研究していたとすれば、現在のレベルに達するだけでも相当に時間がかかったはずです。
根粒菌が共生するのはマメ科にほぼ限定されるのですが、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)と呼ばれるカビは、陸上植物の約8割の種と共生します。根粒菌は植物栽培で大量に必要な3大養分の1つである窒素栄養を供給しますが、AM菌はもう一つのリン酸を土壌中から集めて植物に供給します。このAM菌はなぜか研究のモデル植物が嫌いで、シロイヌナズナやヒメツリガネゴケ、ゼニゴケとは共生しません。また共生菌を受け入れるために必須の遺伝子群の一部が根粒菌共生でも使用されていることもあり、ミヤコグサはAM菌共生の研究でも重要な役割を果たしています。
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