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ゼニゴケもヒメツリガネゴケと同じく、植物科学研究で重宝されている植物です。ヒメツリガネゴケは蘚類の中でも染色体が27本と多く、機能が重複する遺伝子が複数あります。したがって同時にそれらを潰さないと遺伝子の機能が判らないのですが、ゼニゴケはそのような傾向もありません。もともと昔から植物研究の題材にされてきた歴史があるのですが、近年になって再び脚光を浴びている植物です。
ヒメツリガネゴケは可憐な外見で、いかにも「コケ」という感じですが、「ゼニゴケ」でgoogle検索すると除草剤の販売や駆除方法のページが上位に多数出てきます。京都大学にはゼニゴケの分子生物学基盤の整備を主導された先生がおられるのですが、最寄りの銀閣寺にさえも駆除対象の「悪いコケ」としてゼニゴケが展示されていると嘆いておられました。私自身も何も知らない子供の頃、たまたま近所の公園の日陰で群生しているゼニゴケを見て、本能的にゾッとして逃げ出した記憶があります。「普通の植物」とはあまりに異なる理解不能な形態が嫌われる原因でしょう。逆に言えば、知ってしまえばむしろかわいい。杯状体と呼ばれるクローンを排出する器官や、ニョキッと伸びた雄器托・雌器托など、精巧で見事な工夫も詰まっています。ゼニゴケの一種であるジャゴケにはマツタケの香り成分が含まれているそうですし、私が研究していたフタバネゼニゴケは室内で栽培するとシソの香りがします。私達の無知によって嫌われているだけで、人間に害をもたらすことも無い個性豊かな植物です。そっとしてあげてくださいね。
ゼニゴケには茎がなく、いかにも原始的な外見をしています。茎があるヒメツリガネゴケと比較しても原始的なように思えるのですが、意外なことに苔類のもっとも基部で分岐したコマチゴケには立派な茎があります・・・。そもそも苔類は茎がある方が多数派らしいです。つまり、もともと持っていた茎を無くす方向に進化した可能性が高いです。実際、ゼニゴケは茎が無いにもかかわらず、地面をビッシリと覆って被子植物などが生えないようにして繁殖しています。つまり茎が無くても光の奪い合いを制することが可能なのです。コケ植物も進化しながら現在まで生き延びているので、まったくもって下等でも「愚かな植物」ではありません。最適化した結果として今の姿をとっているのです。
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