植物の敵と味方 〜結〜

植物の敵と味方

植物の基礎的防御応答を制御することが知られているOsCERK1が、正反対の共生菌を受け入れる機能も担っていることを私達は明確に証明しました。類似した報告は、少なくとも植物業界では全く存在しません。しかもイネ以外の多くの植物でも同様の仕組みになっている可能性も示唆されています。OsCERK1は、現在でも全く同定されていないMycファクターの受容体である可能性も高いです。私はこの論文がNatureやScience誌に掲載される資格が充分あると考えていました。

しかし投稿してみると、NatureやScienceはもちろん、その姉妹紙でさえもpeer reviewに進みませんでした。1年近く時間を浪費したあげく、PNASという雑誌の著名編集者にお手紙を書いて推薦を依頼したのですが、私の論文を見た編集者は「この論文は、私が推薦しなくても充分採択されるだろう。なんでわざわざ推薦を依頼するの?」という反応でした。それでも推薦を依頼して、さらにその頃に募集してた国際学会の発表にエントリーしました。予想通り国際学会ではシンポジウムに選ばれて、時期的にもPNASのレビューアーが集まる前で発表することになりそうでした。

私のシンポジウム発表の座長にはGiles Ordloydという人が名前を連ねていました。まあ・・・ちょっと日本人に良く無い印象もある人ですが、私の発表をシンポジウムに選んでくれたので悪いようにはしないだろう・・・と信じていました。海外の共生研究者に知り合いが居なかったので、ついでにこの人をレビューアーの候補として論文投稿時に推薦した記憶もあります。しかし結果的には、これが致命的な誤算の1つになります。

シンポジウムの発表当日に衝撃を受けたのは、なんとGilesは私の研究内容と同じような発表をしていました。発表は彼らが一番最初だったのですが、不思議なことに我々が全く結果が出なかったOsCERK1のRNAiで凄まじく綺麗な結果が出ています。私達は学会に出発する直前になって、実はOsCERK1が完全に破壊されたoscerk1でも長期間培養するとAM菌が感染するというデータを得ていたのですが、彼らのデータは我々の「長期間培養」より長い培養の結果なのに、菌糸の一本も入らないような完璧な結果でした。今でもあまりに不自然だと思っているのですが・・・・。動揺したせいもあって私は、質疑応答でほとんど質問に答えられずに終わりました。後日にPNASから返事が来たのですが、レビューアーの1人がクソミソに私達の論文をけなしており、不採択となったのです。匿名なので誰なのかは判りませんが、想像するのは容易です。ちなみに私達の発表自体は相当なインパクトがあったらしく、海外の研究者のツイッターに内容が速報で出回っていました・・・。

 

私の未熟さもあって、結局はPlant Cell & Phisiology (IF=4.76)という雑誌に論文は掲載されました。この論文は現在まで毎年20回以上引用されております(今年も既に26回)。ちなみに私の論文が掲載されると、アメリカの著名な共生研究者が「I cannot understand why they publish this in such a journal」とつぶやいていました・・・・。

私はこの時まで、「研究者の価値観は発見の重要性や面白さが第一である」と信じていました。例え利害が対立していたとしても、結局は同じ科学者として根っこの部分はわかり合える。しかし実際には政治的な状況や業界での立ち位置、コミュニティにおける認知度などがとても大きいです。特に近年は中国からの投稿数が凄い数になっていると推測されるので、おそらくNatureやScience誌の処理能力を超えているのではないかと思います。有力研究者になると著名雑誌の編集者に電話一本で相談できるような話もよく聞きますので、特にトップジャーナルでは無名研究者に勝ち目は無いのかもしれません。実力を磨くのは日本でも充分可能だと思いますが、海外で研究する最大の利点は、この辺りにあるのでしょう。(著名研究室からは、「これのどこがNature?」というレベルの論文でも頻繁に掲載されます)

それに加えて、最近では鍵となる発見だけではなく、それに関連するデータも細々と求められる傾向が強くなっています。「鍵となる発見」について、あらゆる方面から証明することには全く異存はありませんが、例えば私のこの論文の場合は、共生シグナルの下流因子を解析するべきだったという指摘も受けました。それは次の話だと私は思うのですが・・・・。(最近の論文は冗長で退屈に感じることも多いです)

植物の敵と味方 〜その後〜

 

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