バロニア

生徒達の研究

Valonia

「細胞が割れても生存できる~巨大単細胞生物オオバロニアの生存するための工夫~」

岡部菜々子さん

第58回日本植物生理学会年会高校生生物研究発表会 最優秀賞受賞

 JSEC2017 花王特別奨励賞

古代中国の孫子の格言に、「凡将は戦い始めてから勝利する方法を求めるが、名将は勝ってから戦いを求める」とあります。勝てるだけの算段をしてから研究を始めるべきなのですが、実際にはなかなか難しい。しかし面白い植物を探してくるように言われた岡部さんが、教科書の図説でバロニアを見つけて持って来た時、私は「勝った!」と確信しました。あまりに非常識で矛盾した植物だからです。

バロニアは緑藻植物門のアオサ藻綱に属する植物で、直径1〜3cmの球状です。そして恐ろしいことに、単細胞生物です。wikipediaのオオバロニアの写真も大迫力です。

通常、私達が普段見かけるようなサイズの生物は多細胞だと思います。多細胞だった場合、体の一部に傷が付いても耐えられる可能性が高いですが、単細胞だとちょっとした傷でも致命的でしょう。バロニアには、そのような心配が無いのでしょうか? それとも非常に貧弱な生き物なのでしょうか? バロニアでググってみると、水槽に混入してしまった場合に排除できないで苦労しているようなブログが多く見つかります。つまり貧弱ではなく、繁殖力は非常に強いようです。どのような仕組みになっているのか、研究を始める前は想像も付かなかったくらい矛盾しています。

私の基生研の同僚である前田太郎博士の水槽にもバロニアが混入したので、ありがたく譲り受けて使わせて頂きました。バロニアは、意外に堅くてスーパーボールのように弾みます。さっそく岡部さんは針を刺したのですが、全然破裂したり萎んだりしません。そして少し時間が経つと、下の写真のように、単細胞の中に多くの緑色の球状のものが出現します。

針を刺した直後の穴の周辺を観察すると・・・

穴の周囲の葉緑体が凝集して球状になることが判りました。

これらの小球はそのまま大きくなって新しい個体になるそうです。岡部さんはバロニアの中身を遠心機で集めました。

中身を取り出して、滅菌した海水で一週間育てると、全てではありませんが、多くの小球が成長を始めます。

バロニアは真核生物で、葉緑体やミトコンドリアを持っています。また多核の単細胞なので、核も大量に持っています。どうやらブドウのような感じで細胞膜の内側に薄い葉緑体・ミトコンドリア・核を含んだ層があって、細胞膜が破損するとこれらが凝集して新しい細胞を作るようです。私はこの手の話の専門家ではありませんが、細胞膜や小胞輸送などの専門家は、この現象の奇抜さに頭を抱えるのではないでしょうか・・・?

 

他に岡部さんは、バロニア同士がお互いに密着しあうことに気が付きました。観察してみると、お互いに糸のようなものを伸ばして接続しているようです。細胞壁の一部が変化したような印象ですが、緑色をしているので細胞質自体も連絡しているのかもしれません(原形質連絡?)。

 

バロニアの研究は植物学会や植物生理学会で発表しましたが、その非常識さには、多くの専門家が驚いていました。バロニアを提供して下さった前田博士には、他にも色々な「非常識」藻類の存在を教えて頂いています。海の生き物で面白いのは、動物だけではないようです。

 

 

コメント