Haworthia obtusa
植物にはなぜ色が付いているのか?
~透明な細胞を持つ窓植物オブツーサの観察~
中尾遙奈さん
第78回日本植物学会高校生発表 優秀賞
第56回日本植物生理学会高校生発表 最優秀賞
[ngg_images source=”galleries” container_ids=”7″ display_type=”photocrati-nextgen_basic_slideshow” gallery_width=”800″ gallery_height=”400″ cycle_effect=”fade” cycle_interval=”7″ show_thumbnail_link=”0″ thumbnail_link_text=”[Show thumbnails]” order_by=”sortorder” order_direction=”ASC” returns=”included” maximum_entity_count=”500″]私は高校での研究指導で、研究には新奇性が必須だということを最初に教えます。その新奇性のあるテーマの見つけ方の一つとして、「常識」の植物とは違う変わった植物を薦めます。中尾さんは素直に、自分がもっとも面白いと思った「変な植物」を研究題材に選びました。そして、どこが普通の植物と違うのか? 逆に普通の植物はなぜその選択をしたのか? など、いろいろなことを議論しながら研究を進めてくれました。通常、植物の葉や茎などの組織は、茎頂と呼ばれる部分にある未分化の細胞から生じます。オブツーサの古い外側の葉から、内側の茎頂に向かって順番に葉を剥がして比較してみると、葉の表皮の葉緑体が発達している面積がどんどん少なくなることが判りました。肉眼で観察できるもっとも小さな葉は、表面に筋状の葉緑体が少しだけ存在するだけで、ほとんどが透明です。さらに小さな葉を顕微鏡で観察すると、緑色の筋さえも無くなるので、
- 発生したばかりの葉は透明
- 最初は筋状に葉緑体が発達する
- 次に筋の間を埋めるように葉緑体が発達する
ことが判りました。
なぜオブツーサは、このような不思議な形をしているのでしょうか? 中尾さんはインターネットで、オブツーサの原産地である南アフリカの旅行記のようなサイトで答えを見つけてきました。このページの写真を見る限り、原産地では葉の先端の窓だけを地表に出して、オブツーサは地中に潜って生活しているようです。
南アフリカは、おそらくかなり暑いでしょう。したがって地表に出した先端の窓から光を取り入れて、地中で光合成するのは合理的だと思います。これは既知の情報ですが、とりあえず中尾さんは実際に光をあててみることにしました。驚いたことにレーザポインターをオブツーサに照射したところ、下の写真のように、どこか不思議な光景になりました。
レーザーは直進性の高い光です。普通は点になるはずの光が、葉の全体に拡散しているように見えますね。拡散するということは、内部の「透明な組織」は透明ではないのかもしれません。
そこで透明な部分だけを取り出してレーザーポインターを照射してみると、やはり透明な部分はレーザーを拡散させました。ちなみに同じ透明な組織を持つアロエも同様に拡散が生じますが、透明ではないエケベリアは、レーザーがほとんど広がりませんでした。
次に実際に窓から入った光を観察することにしました。内部が見やすいように側面を切り落とした葉の先端にレーザーを照射したところ、透明な窓を持つオブツーサだけが内部に光を拡散する様子が観察されました。オブツーサの窓に照射するレーザーの向きを変えてみても、葉の根元まで光が拡散する様子が観察されます。したがってオブツーサの「透明な」細胞は、窓から取り込んだ光を積極的に拡散させることが判りました。
[ngg_images source=”galleries” container_ids=”14″ display_type=”photocrati-nextgen_basic_slideshow” gallery_width=”600″ gallery_height=”400″ cycle_effect=”fade” cycle_interval=”10″ show_thumbnail_link=”0″ thumbnail_link_text=”[Show thumbnails]” order_by=”sortorder” order_direction=”ASC” returns=”included” maximum_entity_count=”500″]オブツーサの「透明な」細胞は、なぜ光を拡散させるのでしょうか? 考えてみるとオブツーサは地中に潜っても、太陽光が直進するならば一部の細胞に集中的に強烈な光が照射されてしまいます。しかし中尾さんが発見したように拡散させることで、光を弱めることができますし、全ての葉緑体を効率的に使うことができます。したがってオブツーサは、従来考えられていたよりも、もう一歩進んだ戦略を持っていると考えられます。オブツーサの透明な組織に関する研究は大昔に生理学的な解析が少し行われているのですが、透明にみえる組織が実は光を拡散する役割を果たしている発見はおそらく世界で初めてではないかと思います。(少なくとも専門外の私が論文データベースを検索した限りでは見つかりません)
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