オブツーサ-2

生徒達の研究


Haworthia obtusa

植物が効率よく光合成をするための工夫

~透明な細胞を持つ窓植物 ハオルチア・オブツーサ~

田中美花さん

第79回日本植物学会高校生発表 優秀賞

第11回 みんなのジュニア進化学 優秀賞受賞

 田中さんは前年の中尾さんの研究していたオブツーサに惹かれて、テーマを引き継ぎました。正直なところ、先駆者に対して後追いは評価が低くなるために、高校生研究としては不利になると私は懸念していましたが・・・・、田中さんは色々と工夫しながら次々と新しい発見をして驚かせてくれました。

 

中尾さんはオブツーサの茎頂付近から分化した葉は、最初は透明であり、それが大きくなるにしたがって緑化していくことを明らかにしました。しかし、これはあくまで既に大きくなった植物の葉の分化についての知見です。また本当の茎頂がどれかについて、薄切り切片を作って顕微鏡で探したかったのですが、オブツーサの茎頂付近は堅すぎて切片化できませんでした。

この話を田中さんにしたところ、田中さんは色々と調べて、オブツーサの葉を乾燥させてしばらく放置しておくと、新芽が形成されるという情報を得てきました。実際に彼女が挑戦してみると、新芽を形成させることができました。(面白いことに、最初に古い葉の中に根を作ります)

この新芽は成長したオブツーサほど堅くは無いので、田中さんはこれを使って薄切り切片を作りました。その結果として、茎頂らしき場所を発見したのです。これは意外にも緑色をしていて、私達は凄く驚いたり喜んだりしていたのですが・・・

植物の形態に詳しい人に見て貰うと、どうやらこれは茎頂ではなく、発生したばかりの葉のようだとのことでした。おそらくこの部分の手前か奥に本当の茎頂があったのかもしれません。結局、私達にはオブツーサの本当の茎頂は見つけられませんでしたが、この田中さんの執念と一生懸命さは、別の形で実を結ぶことになりました・・・。

 

中尾さんはオブツーサの透明な組織が、窓から入ってきた光を散乱させていることを発見しました。しかし、この具体的なメカニズムは全く判っていません。これに対して田中さんは、顕微鏡下で横から切片にレーザーを照射することで、細胞レベルで観察することを思いついたのです。

この単純ながらも盲点を突くような発想で田中さんは、オブツーサが細胞レベルで光を拡散させていることを発見しました。また「窓」の付近は小さい細胞が密集しているので特に散乱が激しいことや、散乱した光が実際に根元の方の表皮の葉緑体まで届くことも観察しています。

恐ろしいことに田中さんの発見は、これだけではありません。「拡散が細胞壁または細胞膜付近のどちらで生じているか?」という問いに対して、彼女はインターネット上で細胞壁をセルラーゼで溶かすプロトプラストの作り方を見つけてきました。私は有機酸などを大量にため込んでいそうな多肉植物のプロトプラスト化は、浸透圧が普通とは違うので厄介だろうと考えていました。また、イネやシロイヌナズナのプロトプラスト作製でも、大学院生などが苦戦しているのを見ていたので半信半疑でしたが、田中さんは市販の安いセルラーゼを使ってアッサリとオブツーサのプロトプラストを作製してしまったのです。そしてレーザーポインターを使って光を照射したところ、なんと細胞壁を失ってもオブツーサは光を反射していました。

ちなみに「細胞膜だったらオブツーサではなくても光るかも知れないですね?」とコメントしたところ、次の週にはアッサリとキャベツのプロトプラストを作っており、しかもそれが光らないことを見せてくれました。(キャベツのプロトプラストは、細胞同士が接している場所のみ反射する)

植物生態学の非常に著名な先生にこのお話をしたところ、最初は「ほとんど水と同じ屈折率を持つ細胞質と、細胞間隙の空気の間で反射が生じているのだろう」と信じて頂けませんでした。しかしデータをお見せしたところ、「まさか・・・」という感じで絶句しておられるように見えました。

現在、理化学研究所の豊岡公徳博士のご協力を頂いて、電子顕微鏡による細胞膜および細胞壁の解析を行っていただいています。なかなか面白そうな結果が出ているのですが、これらの結果をまとめて、卒業した田中さんと論文投稿をする予定です。

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