高校生研究発表会への提言2〜解決案(中川式)

Ph.Dコラム
欠点や課題の多い研究、洗練されてない研究があるのは確かです。
しかし一定のレベルを超えると、異なる研究同士を比較するのは無意味になります。
このような状況で、「最優秀賞」を決める意義があるのでしょうか?
審査自体も、現状でも大変なのですが、中学・高校のカリキュラムが研究教育を重視したものに変更になっていますので、これからますますエントリーが増えるでしょう。
大学側もAOや推薦枠を増やしていますが、「受賞」を基準にするとアピールが上手な学生ばかりが集まって、優秀な研究をする生徒(職人タイプとか)を見逃す恐れもありますね。
そこで提案させていただきたいのが、コンテストの代わりに

「研究品質の認定のための発表会」

を行うことです。

 

異なる研究を比較して優劣を決めるのは、基本的には無理があります。
一方で、その研究のレベルを専門家が評価するのは難しくありません。
これはコンテストではなく、段級位制が適していることを示していると私は考えます。
剣道とか柔道とか英検とかのアレですね。
専門学会などでは、以下のような階位を提案したいと思います。

 

評価:SSS
専門研究者としても世界的にトップレベルであると認められるレベルの高い研究
(博士号を持つ審査員全員が認める必要がある。認定した全員の名前が公式に記録されて、少なくとも発表された内容のレベルや新奇性には責任を持つ)

4/2追記: 審査員が「責任を持つ」と書いてますが、賭かっているのは名誉だけです。イマイチな発表を1度や2度推してしまったからといって非難されるべきとは思いませんが、さすがに何度も続けたり自分の身内や関係者ばかりを推すような人は排除されるべきでしょう。つまり「評判」を作るために記名しましょうという意味です。逆に地味だけど良い研究を見つける人の評判が良くなるという考えもあります。

 

評価:SS
専門研究者に匹敵するレベルの新奇性がある発見を達成した研究
(最先端技術や機器を使用しただけの、専門家であれば凡庸なレベルの研究は除く)
(当該分野の博士号取得者が2人以上認めて、他の審査員の反対が無い。認定した2人の名前は公式に記録されて、少なくとも発表された内容のレベルや新奇性には責任を持つ)
 
評価:S
中学・高校生としては、着眼点に優れた独創性の高くインパクトのある発見を行った研究
(最先端技術や機器を使用しただけの、専門家であれば凡庸なレベルの研究は除く)
(博士号取得者が2人以上認める必要がある。認定した2人の名前は公式に記録される)
 
評価:A
努力して工夫しながらアプローチしたことが認められる面白い研究で、新奇性も認められる。
 
評価:B
課題や改善すべき点が見受けられるが、将来に期待したい良い研究
 
評価:C
新しい発見は無いが、工夫したり努力したことが充分認められる研究
 
評価:D
課題が多く、今後の精進が望まれる研究

 

評価:E
科学の基本姿勢を学び直して欲しい研究
(評価者個人の地雷を踏んでしまっただけのケースも考えられるので、これも認定には2名以上の賛同が必要)
 
粗製濫造を防ぐために、SSSやSS認定は基本的に該当者が無いことを想定しています。
Sも該当が無ければ無理に認定しないことを希望します。
S以上を認定した研究者は責任(特に発表された成果の核心部分の新奇性)を持つという意味で、記名されるべきだと考えます。
それでも認定せざるを得ないくらい見事な研究もあるでしょうし、期待したいところです。
もし審査員として名前が残るのがイヤであれば、最高でもAまでの評価に留めれば良いです。
逆にEの評価も実際には使用されないとは思いますが・・・
信じられないくらいレベルの高い発表会だった場合を除いて、大部分の発表者がBまたはCになるように。
しかしレベルが高ければAやS以上が複数出ても、それは全てそのように評価すれば良いかと思います。
(信賞必罰を明確にすることが肝要)
 
この制度の重要なポイントは、参加した全ての発表に評価が与えられるということです。
また他の研究と比較する必要は無いので、審査員が分担して評価することが可能です。
 
発表会の形式についても提案があります。
おそらく多くの学会では、発表を奇数番号と偶数番号の2交代制にしていると思います。
審査員は基本的に発表時間内に審査すれば良いと思いますが、人が多すぎて近づけない場合なども想定されますし、時間が足りなくて誰も見ていないポスターがあるかもしれません。
またS判定以上またはEの評価を与えるべきだと感じた場合、他の審査員にも検証してもらわなければなりません。
そこで奇数・偶数の発表時間をそれぞれ少し削り(10分づつくらい?)、最後に審査員が絶対優先される時間を設けます。
この時間に審査員全員で再度手分けしながら全員を評価します。
評価されたポスターには、例えば右上などに評価シールを貼るなどの工夫をすれば効率化できるでしょう。
専任の記録係を創れば、審査時間中にも認定証の準備を進めることが可能ですし、見落とされているポスターを審査員に知らせることもできます。
また、発表者の目の前で低い評価を下すのはなかなか勇気が必要かと思いますし、発表者も発表時間中に低評価だと判ると気持ちが切れてしまうでしょう。
そこでSSS~Eのような一目瞭然のシールではなく、審査時間中は審査員と記録係しか判らないような抽象的なシール(動物とか? 100円ショップにあります。たぶん)を使うと良いかと思います。
 
審査結果は認定証を作って表彰(?)式で渡します。
この時に認定した責任を持つ学会名は必ず記載することで、大学の推薦・AO入試担当者が発行した学会・発表会の信頼性を判断できるようにします。
またS判定以上は、認定した研究者の所属と名前・学位を認定証に記載するようにします。
(これらの記載が無い認定証は、入試では無効とか。無責任に高評価を乱発する学会や審査員を見分けるために重要)
現状は表彰状に学会長の名前などが記載されていると思いますが、学会長が発表を直接見ることは少ないですし、責任も持たないですよね・・・?
起こらないとは信じますが、偽造される可能性も考えて、その学会で通し番号を入れておくのも良いですね。
もちろん生徒側は、もし納得いかなければ他の発表会にチャレンジしなおすこともできます。
公式に記録が残るのは良い場合のみですので。

>高校生研究発表会についての蛇足

コメント

  1. 匿名希望 より:

    高校生の研究について評価を公平に行うのはポスター発表などの短時間ではかなり困難だと思います。
    名誉がほしいがために、高校の先生の誘導により結果を出しているかどうかも分かりません、
    大学や国の研究機関とのつながりがあり、アイデアや手法を相談している高校もあるかもしれません。
    そのような高校生と他の高校生を一緒にして評価することは公平でしょうか?

    若いうちから、研究者と接点を持つことは悪いことではないかもしれませんが、
    研究の評価がAO入試などに使用されるとなると、研究の中立性?純粋性?が失われていくのではないでしょうか?
    入試目的の学生による捏造問題なども出てくるかもしれません。

    学会が成果を保証するためには、すべての研究で生データの提出などの必要性が出てこざるを得ません。
    この様なことは実際には困難だといわざるを得ません。
    また、個人の先生たちも、評価に責任を負うわけで、なり手がいるかも分かりません。

    もし、学生の研究能力に評価をつけたければ、
    高校生など学生の研究能力に本当に優劣をつけるなら、
    すべての環境を揃えた上での競争でなければ意味が無いと思います。

  2. 中川知己 tomomi より:

    ご意見ありがとうございます。

    現実として、おそらく発表会の受賞結果などは幅広く推薦やAOの参考にされていると思います。
    高校生も色々なものを削って研究して参加しているので、私としては優れた研究に進学に役立つ評価を与えるのは賛成の立場です。

    個人で評価の責任を負う件ですが、もちろん「発表に供されたデータ・結果に関する評価」です。
    普通の論文のレビューでも全く同じだと思いますが、データそのものがねつ造された場合はレビューアーの責任が問われることは無いでしょう。
    ただ、あまりに稚拙な研究に高評価が乱発されると、制度そのものが信頼を無くします。
    どちらにせよ、評価者に具体的なペナルティなどがあるわけではなく、名誉のみが関わっています。
    仮にもPh.Dを持っているなら、ポスターで示されているデータや成果の矛盾や、実際に発表者と話して見破る力も期待できるかと思いますが・・・いかがでしょうか?