高校生との接し方は、将来の研究業界の盛衰に関わる重要な要素です。
憧れと尊敬を抱かせることを常に意識してくださると、研究者側にも高校生側にも最善となる場合が多いです。
以下に研究者として高校生指導に長年関わって気が付いた、指導者または審査員としての重要事項を説明させていただきます。
<指導者として>
・専門論文を理解するには相当な訓練が必要
読むために必要なのは英語力だけではありません。高校生が論文を完全に理解して、論文の筆者が思いつかないようなアイデアを見つけると考えるのは現実的ではないです。それでも読ませるならば、大学生に接するとき以上に時間をかけてフォローしてあげてください。
(個々の実験の原理や言えることと言えないことなど、普通に考えたら膨大な手間がかかります)
それを博士号の無い高校教員などに丸投げするのは無意味かつ無責任です。
私個人は少なくとも研究を始める段階で、テーマを見つけるために論文を読む必要は無いと考えています。
・仮説が正しくなくても大丈夫
日常からテストされて点数で評価される機会が多い高校生は、「最初に考えた仮説は正しい」ことに固執する傾向があります。私は研究の素人の高校生が、実物に触ったり観察したりする前に仮説を立てる意味は無いと考えていますが、仮説を立てさせるならば正解である必要が無いことも説明してあげてください。下手をすると「確実に的中させるために他人の成功した研究を模倣すればいい」と考えてしまうことさえあります。
・本当に生徒が知りたいのは何?
生徒が掲げる目的と、実際に考えたり行ったりしている実験が噛み合わないことがよくあります。この場合にズレているのは、目的の方だったりします。
・努力や工夫は必ず褒める&失敗を恐れさせない
失敗を怒ったり笑ったりすると挑戦自体をしなくなります。安価で収まる範囲でケガの心配が無ければ、生徒にどんどん挑戦させてあげましょう。
(もちろん失敗の原因を分析させることは重要です)
また工夫や努力に気付いて褒めてあげることも非常に重要です。
挑戦をしっかりと評価して、その生徒さんの将来に期待している態度を明確にした上で、成長するために必要な足りない考え方などを指摘してあげてください。
<審査員として>
・本当に高校生のオリジナルな発想なのか?
高校生に独創性を求める是非は評価者の価値観次第だと思いますが、剽窃や専門研究者の入れ知恵を見抜けないのは審査員としての資質の問題だと私は考えています。
どこに着眼して、どういう風に考えて研究を進めたのか?
着眼の仕方や研究の進め方が自然であるかについて特に注目してください。
剽窃や専門研究者の入れ知恵だと、着眼や戦略・実験の進め方の論理の矛盾や飛躍が顕著になります。マクロレベルのデータから、突然にピンポイントでミクロレベルのデータが出てきた場合など、正解を予め知っているとしか思えない展開も要注意です。
不自然なほど上手くいってると感じた時は、元ネタの有無を検索してみてください。
その上で発表者と話をすると、オリジナルなのか見分けることは簡単です(高校生も素直な子が多い)。
例:「ある廃材に二価の陽イオンであるマグネシウムイオンを使えば処理できることを思いついた!」
突然すぎる発想ですが、そもそも入手しやすいカルシウムではなく、なぜマグネシウムを使ったのか?
検索するとカルシウムイオンを使った方法が発表者の地元の中小企業で既に実用化されていたりします。
先行研究として引用を示せば問題の無いケースですが、全てが独自発想のように発表しているなら指導してあげましょう。
・どのような研究を推奨したいのか?
審査において非常に重要なのは、基準が明確で厳格に運用されることです。
受賞した研究は後に続く多くの生徒たちの模範となりますし、評価されなかった研究はダメなのだと生徒や高校教員が感じるのは自然なことです。
見かけの公平性や玉虫色の「みんな素晴らしい」コメントは効果がありません。
成長のために何が必要なのかを明示した方が生徒たちは前向きになれます。
また高いレベルで優劣が付けられないのであれば、1位を無理に絞りこむ必要があるか疑問です。
その意味では段位認定制のような形式の方が適切だと思われます。
人がやる気を無くす最大の要因は「公正な評価を受けられないと感じること」「自分には絶対に無理だと思うこと」の二点です。後者は指導の仕方や教え方のコツを広く共有することで対処できると期待していますが、前者は指導側にはどうにもなりません。
・前向きな助言や努力を誉めることを忘れずに
高校生研究が未熟なのは当たり前のことです。
論理の飛躍や実験の不備を見逃す必要はありませんが、そもそも審査や助言は「より良い研究に導くため」のものです。このようにすればもっと面白い、効果的だという助言とセットで話すように心がけてください。
また実を結ばなくても、工夫や努力を感じ取って丁寧に褒めることは非常に重要です。
高校生の心を折っても誰も得しません!!
志望する人が減って業界が衰退するだけです。
<最後に・・・>
高校生の研究指導に関わることは、将来にPIを目指す研究者にとっては非常に良い経験になります。未熟だけど熱意ある若者に興味を持たせて、勇気づけて、そのうえで必要な知識や考え方を伝授する。
自分がボンヤリとしか理解していないものは説明できません。
言語化して初心者に説明できるレベルで自分の考え方を整理すると、アイデアの見つけ方、研究戦略の立て方、発表、コミュニケーションスキルなどの能力が大幅に向上します。
高校生のためではなく、自分の研究能力を磨くためにもおススメです。
コメント