研究者という生き物

高校生が研究を行うにあたり、協力者や審査員として関わる可能性が高い研究者について、私の視点から説明します。

大学を卒業した後で、さらに研究を志望する人は大学院に進みます。大学院は修士課程(標準的には2年・修士の学位)と博士課程(同3年・博士の学位)で構成されています。つまり高校卒業後に大学の学部で4年、大学院で5年で、高校卒業してから9年以上かけて博士号にたどりつきます。
ちなみに博士号は論文数などの要件(大学院によって異なる)があるので、もっと時間がかかる人も珍しくありません。博士号取得後は、短期契約の研究員(ポスドク、任期付研究員、特任助教など)を経て大学の准教授や教授、企業や研究所の研究員というのが典型的なキャリアです。

博士号を持っていたら一人前の研究者と認識されますが、その人の研究スタイルなどによって得手不得手がかなり存在します。例えば実験が好きで上手だけど、自分でアイデアを生み出したり、発表することが苦手な人も多いです。私の実感だと博士号を取得した直後の人で、新しい分野で自分で研究テーマを立ち上げられる人は1割程度ではないかと思います。ちなみに私自身、まともそうなテーマが一応は出せるようになったと思えたのは博士課程の3年目くらいからです。高校生が自分で新しいテーマを見つけることがどれほど難しいのか重々判っています。

自分で新規性の高い研究テーマを生み出すことができなくても、研究者として優秀で研究の発展に大きく貢献する人も多いです。どちらにせよ業績や実績等が評価されて准教授や教授等になりますが、面白いことにその過程で、研究の仕方やアイデアの見つけ方・研究の進め方などの教育・研修を受ける機会は基本的にありません。運が良ければ教育意識の高い指導者や先輩から丁寧に教えられる機会があるかもしれませんが、それは指導者や先輩の個人技です。ちなみに博士号を持つ研究者367人から「研究とは何か?」を習ったことがあるかという質問の回答をいただきましたが、75%の人が「無い」と答えています。
(習ったことがある人が25%も居て私は驚きました)

例えば野球だと投手と内野手・外野手・捕手などのポジションがありますし、監督や球団運営に関わる人がいます。それぞれ高度な技術や知識が求められますが、全部できる人はいないでしょう。投手は捕手の技術を求められませんし、投手として優秀であれば充分です。研究も同じで大学の教授やノーベル賞学者であったとしても、全てができると考える方が無理があります。つまり研究を遂行する能力が高くて評価されたけど、自分でアイデアを生み出すことは苦手という研究者も実は珍しくありません。また初心者に教えるためには、自分がその原理を言語化できるレベルで理解している必要があります。最初から才能があって、なんとなく出来てしまう天才も多いですが、名選手は名監督にあらずという言葉もあるように教えることも上手であるとは限りません。

<研究者の頼り方>
具体的にやりたい実験などがあって、その技術や機器の使用をお願いすることに関しては快く引き受けてくださることが多いです。一番困るのは「なんとなく興味あるけど何をしたら良いかわからない」という相談だと思いますが・・・高校生や指導する教員が一番求めているものでもありますね。そもそもアイデアの見つけ方を論理的に、高校生にも実行可能なレベルで説明できる人は多くありません。個人的には高校生に「沢山論文を読んで勉強して、誰も考えていないような仮説を立てましょう」と言う人は、高校生のテーマ探しの指導に向いてないと思います。

最後に研究者の性格についてですが、基本的に人当りが良くて優しい人は多いと思います。無知や理解できないことを怒られることは、基本的には無いと考えて大丈夫です。また優秀な人は専門分野ではなくても面白いと思って、鋭いアドバイスをくれたりします。運悪く偏屈な人に出会うこともありますが、確率的には親身になってくれる人の方が多いので、相性が悪いと思ったら別の人を頼ることがおススメです。

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