マメ科植物ー根粒菌共生の概要

根粒菌共生の解説

生物の体は基本的にタンパク質で構成されています。タンパク質はアミノ酸(全部で20種類)が一列に数十から数千個並んだもので、1分子のアミノ酸には必ず窒素原子(N)が1個以上使われています。また、アミノ酸の配列などの情報を記したゲノムは、DNAやRNAなどの核酸によって構成されています(ヒトだと、通常時は1個の核に31億x2x2分子のDNA・・・のはず)。これも1分子にNが2-3個使われています。

 

地球の大気中の80%は窒素ガス(N2)なので、窒素は簡単に入手できそうに思えます。しかしN2は非常に安定な物質で、N2をアンモニアに変換(窒素固定)するのは、現在の人類の技術でも触媒を使って数百度・数百気圧の条件が必要です(ハーバー・ボッシュ法)。

 

動物と比較すると非常に多くの栄養素を自分で合成できる植物でも、N2を利用できないので土壌中にアンモニアや硝酸などの窒素栄養が無ければ生育できません。したがって我々が作物栽培で使う肥料には、大量の窒素化合物が含まれています(肥料の三大要素は窒素、リン酸、カリウム)。

 

 

しかし原核生物の中には、ニトロゲナーゼと呼ばれるタンパク質を使って、常温・常圧で窒素固定するものが知られています。

 

マメ科の植物はこのような窒素固定細菌の一種である根粒菌を自己の組織内に招き入れて共生することで、光合成産物の提供と引き替えにアンモニアを手に入れることができます。これによってマメ科植物は窒素栄養の乏しい土壌でも旺盛に生育します。

根粒菌共生の偉大さの例として、ブラジルのセラードのダイズ栽培が挙げられます。ブラジルは現在、ダイズの輸出量でアメリカを抜いて世界一で、しかも単位面積当たりの収量も日本の二倍近くあります。アメリカは、単位面積当たりの収量はブラジルよりも多いですが、これは大量の窒素肥料を施肥して達成されたものです(日本でも大量に使っている)。しかし恐ろしいことにブラジルのダイズ栽培は根粒菌に頼っていて、ほとんど窒素肥料を使っていません。もちろん気候や品種の違いもありますが、肥沃ではなかったセラードでこれほどの影響を与えるのは凄いと思います。

ちなみにハーバー・ボッシュ法の高温・高圧の条件を作るためには、大量のエネルギー資源を消費する必要があります。セラードのダイズ栽培は、在来植物・動物の多様性を脅かすという点では非難されていますが、「地球に優しい農業」という点では非常に優れていると思います。
残念ながら根粒菌共生が成立するのは、ほぼマメ科植物に限定されています。根粒菌以外にも窒素固定を行う原核生物は知られているのですが、どちらにせよ農業レベルで使用可能なものは限られており、イネやコムギ、ジャガイモ、キャッサバなどの主要作物には適用できません。

*マメ科はマメ目に属するのですが、マメ目に近いブナ目などにはFrankiaと呼ばれる根粒菌とは別の細菌と共生して窒素固定する植物が含まれます。

(wikipediaのバラ類参照)

根粒菌の感染〜根粒形成

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