至れり尽くせりの根粒菌? その1

根粒菌共生の解説

 

原核生物が大気中の窒素ガス(N2)をアンモニア(NH3)に変換できるのは、ニトロゲナーゼと呼ばれるタンパク質のおかげです。ニトロゲナーゼは大量のエネルギーが必要な一方で、酸素に非常に弱いという弱点があります。

生物が効率良くエネルギーを生み出すメジャーな方法として酸素呼吸と光合成が知られていますが、前者は酸素が必要で後者は酸素を発生してしまいます。多くの窒素固定細菌は、エネルギーを獲得することが難しい嫌気条件で細々と窒素固定をしてます。

この矛盾をマメ科植物に感染した根粒菌はどのようにクリアーしているのでしょうか?

根は通常は白色ですが、根に形成された根粒は赤色をしています。下の写真はミヤコグサの根粒の輪切りですが、根粒菌が感染している内部が赤色ですね。これはしばらく空気にさらしておくと茶色に変色してしまいます。実はこの赤色の物質が、根粒での窒素固定の鍵になっています。みなさんの身近な物質で、普段は赤色で空気にしばらくさらすと茶色になって、酸素に関係する物質って心当たりはありませんか??

この赤色はレグヘモグロビンと呼ばれるタンパク質に起因します(正確にはレグヘモグロビンに結合しているヘムという物質)。レグヘモグロビンは根粒内の酸素と結合して酸素濃度を下げると同時に、根粒菌の細胞膜で呼吸ができるように酸素を運ぶ役割を果たします。これってつまり、我々の血液のヘモグロビンと似ていますよね? 実際に構造的にも似ています。

この分野の長年の謎として、

「根粒菌との共生窒素固定はどの植物にとっても便利であるはずなのに、なぜマメ科植物に限定されているのか?」

というものがあります。

以前私は、マメ科植物って動物のヘモグロビンを持ってるくらい変な植物だからだと考えていました。しかし植物のゲノムが解析されてくると、根粒菌共生を行わないアブラナ科のシロイヌナズナやイネを含めて多くの非マメ科植物でも見つかりました。つまり間違いですね・・・。

ちなみにマメ科植物が作る根粒はレグヘモグロビンだけではなく、酸素バリアーと呼ばれる構造を作っていると考えられています。

(生理学的実験によって存在が示唆されているだけで、具体的には全然判っていない)

これで外界からの酸素の流入を制限した上で、レグヘモグロビンが活躍しているのですね。

至れり尽くせりの根粒菌?その2

蛇足ですが、根粒菌や酸素濃度が低いところで窒素固定を行う嫌気性細菌以外にも、光合成を行うシアノバクテリアも窒素固定を行うものが知られています。これはまた全然違う方法で問題を解決しているのですが、調べてみると面白いかもしれません。

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