キンシャチ(サボテン)

生徒達の研究

Echinocactus grusonii

サボテンの水吸収の工夫

横屋稜さん

第81回日本植物学会高校生発表 優秀賞

サボテンのトゲは、葉の変形物だというのは有名な話です。サボテンを見ながら横屋さんと話している時に、それではサボテンのトゲの生えている緑色の胴体は何か?ということが話題になりました。「普通の植物」として考えた場合、茎に相当するはずです。なんだか面白そうなので、横屋さんにサボテンについて良く調べるように助言しました。

ちょっと意外だったのですが、サボテンは「双子葉植物」であるとのことです。ということは、サボテンの茎は双子葉植物に典型的な下記のような維管束があるはずですが・・・・本当か?という話になりました。

横屋さんがキンシャチ(Echinocactus grusonii)というサボテンの胴体を切断して観察すると、たしかに教科書で見るような双子葉植物の維管束が見えますが・・・・・、何かおかしいです。

横屋さんが気が付いたのが、中心の円形の維管束から水平に伸びる無数の維管束です。そして横屋さんはもう一つ、円形の維管束の半径が異常に小さいことに気が付きました。

 

横屋さんは最初に、水平方向に無数に伸びる維管束について調べました。維管束は表皮にも多く伸びていますが、特に刺座という部分に集中しています。維管束の観察に、初期は導管が染色されるトルイジンブルーという試薬を用いていました。しかし、この方法では本当に導管を使っているかどうか判らないことを指摘すると、横屋さんは根から赤色の色水を吸わせて実際に使用されている維管束であることを示しました。

 

「通常の植物」は、葉から蒸散することで導管内の圧力を下げて、それを利用して根から水分を引き上げます(ストローで水を吸い上げるのと同じような原理)。しかしサボテンは葉がトゲに変化してしまっていますし、高校にある電子顕微鏡でトゲをいくら観察しても気孔は見つかりませんでした。それではサボテンの刺座に維管束が集まる理由は何でしょうか?

 

横屋さんはサボテンに関する書籍やインターネット情報を徹底的に調べて、どうやらサボテンのトゲには朝露が集まって、それを吸収しているという説があることを知りました。そこで刺座に色水を吸わせて観察する実験を行うと、やはり刺座から内部に水が吸収されることが判りました。

上で述べたように、根から水を吸う場合は葉の蒸散で水を吐き出すことで導管内の圧力を下げて水を引っ張り上げます。他にも根の導管にイオンなどの溶質を送り込むことで浸透圧を上げて、その「根圧」を使って土壌から水を吸い上げる仕組みもあります。しかしこれらの仕組みは、刺座から水を吸収する説明にならないでしょう。刺座から内部に水を取り込む仕組みは、どのようになっているのでしょうか?

 

横屋さんが注目しているのは、サボテンの円型の維管束の半径の小ささです。サボテンの茎の細胞は、多肉植物なので高濃度のリンゴ酸などが蓄積しているはずです。つまり浸透圧が非常に高いと推測されます。「普通の双子葉植物」の茎では、円型維管束(正式名称を知らないので仮名)の半径が大きくて表皮との距離が短いですが、サボテンは異様に半径が小さいので、間に大量の細胞が配置されています。

植物体が乾燥してくると、これらの浸透圧の高い細胞が維管束から水分を奪うので、結果として刺座からも根からも水を吸収する圧力が生まれると予想しています。現在、横屋さんは受験勉強の合間にも、これを確認するための実験をしています。

 

横屋さんはあまり器用ではありませんが、毎日のように実験して、いつの間にか多くの結果を出していました。発表なども元々は上手では無かったですが、コツコツと工夫を重ねて、気が付くとかなり上達しています。才能はあっても継続できない人も多い中で、丁寧に継続的に努力してゆっくり成長する姿を見ていると、なんとなく「ウサギとカメ」の話を私は思い出します。

 

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