さて、フタバネゼニゴケ(Marchantia paleacea subsp. diptera)の話に戻ります。近縁のゼニゴケ(Marchantia polymorpha)は大量の胞子を作るので、それを使って低頻度でしか起こらないジーンターゲッティングが可能になっています(防御と共生の進化 3 〜コケ研究の利点2〜)。当然ながら自然界ではフタバネゼニゴケも胞子を作るので、ゼニゴケの方法を応用できるはずです。
私がフタバネゼニゴケのCERK1を調べることを考えた時、実は当時名古屋大に所属していた小八重善弘博士(現・酪農学園大学)がフタバネを使った研究結果をレビューに書いていました。連絡を取って一緒に研究することを提案したのですが、彼が注目していた遺伝子がフタバネでは多重化しているらしく、期待した成果が得られないので撤退するということです。また、彼が使っていたフタバネは培養細胞で20年近く過ごした後で再生したものらしく、培養変異の影響も怖いです。そこで知り合いに相談して基礎生物学研究所におられた榊原恵子博士(現・立教大学)にご協力いただき、奈良県の上多古村で採取されたフタバネを得ることが出来ました(Takoと命名)。採取したフタバネゼニゴケは、広島大学の嶋村正樹博士に鑑定していただきました。このフタバネゼニゴケにアーバスキュラー菌根菌を接種したところ、期待通りに感染が確認できました。
また、キチン防御応答を起こすかどうかについても調べたところ、キチンに応答して活性酸素を発生させることや(下図左)、防御応答遺伝子群が誘導されることも確認しました。ちなみに意外でしたが、被子植物で強烈に基礎的防御応答を発動させる細菌の鞭毛成分であるflg22に対しては、フタバネは全く応答しませんでした。
つまりフタバネゼニゴケは、期待通りAM菌共生とキチン防御応答をするということを証明しました。
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