陸上植物の大部分は、アーバスキュラー菌根菌(AM菌)と呼ばれるカビと共生しています。このカビの菌糸は土壌に広がっており、そこからリン酸などの無機養分を回収します。菌糸の一部は植物の根に受け入れられて、一部の植物細胞内に形成した樹枝状体(arbuscule)で、集めた無機養分を光合成産物と引き替えに植物に供給します。
根粒菌はマメ科植物の根に受け入れられて根粒と呼ばれる器官を誘導します。この中で根粒菌は、大気中の窒素をアンモニアに変換して宿主植物に供給します(詳細は根粒菌共生の概要参照)。
これらの共生により、植物が多量に必要とする窒素やリン酸(3大栄養素で、あとはカリウム)を入手できるという大きなメリットがあります。
私は植物と微生物が助け合って生きているという「相利共生」に惹かれて、京都大学の大学院で根粒菌共生の研究を始めました。共生業界の先輩方も農業的な重要性から、根粒菌共生のメカニズムを解明して、イネやコムギなどの根粒菌共生ができない重要作物に共生を広げることを目標としていました。
しかし・・・運が良いのか悪いのかわかりませんが、隣に植物病理学の研究室があって、ウイルスが巧妙に感染する仕組みに関する講義が非常に刺激的でした。また博士課程の終わり頃に植物病理学分野で大きな発見が相次ぎ、植物と病原細菌がお互いに高度な感染/防御戦略を備えていることが判ってきました。植物は非常に高度な警戒システムを備えており、侵入を感知すると自爆攻撃も辞さずに排除を試みます。一方で病原菌は警戒システムを回避するための手段を次々に開発して、植物の認識をすり抜けて深刻な病害を引き起こすのですが、植物側も対抗手段を編み出します。つまりお互いに自身の生存を賭して、激しい対抗進化を繰り返して生き延びているのです。
このような世界に触れた後で自分の研究分野を眺めると、「植物が共生パートナーである微生物を積極的に組織内に受け入れて、最終的には細胞内共生を行う」という現象は、矛盾に満ちているようにしか思えなくなってしまいました。
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