大学院研究(1) 根粒菌共生はなぜマメ科だけ?

根粒菌の共生農業的に重要なのですが、マメ科植物にほぼ限定されています。窒素栄養自体は全ての植物で必要で、そのために我々は大量の化石燃料を消費して肥料として投入します。一方で局所的に投与した窒素栄養は消費しきれずに河川に流出して、藻などの繁殖による水質汚染を引き起こしたりします。生物の窒素固定は過剰にならないように制御しているので、根粒菌共生を他の作物に広げることは、資源の節約に留まらない意義があります。

 

マメ科植物以外では、根粒菌以外の微生物と共生して窒素固定する例も散見されますが、遺伝子レベルの解析はほとんど行われていません。どちらにせよ農業レベルで使えそうなものは少ないです。「窒素栄養の獲得」は全ての植物に共通する重要事項にも関わらず、なぜ根粒菌共生はマメ科植物に限定されているのでしょうか? 2000年の12月にアブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナのゲノムが発表されましたが、それ以前は「共生に必須の遺伝子が非マメ科植物に無いから」だと考えられていました。つまり他の植物は、遺伝子*1が足りないために根粒菌共生ができない。これは間違っていないと思いますが、それほど単純ではなさそうなのです。

例えば根粒が赤色に見えるのは、膨大な量のレグヘモグロビンと呼ばれるタンパク質が蓄積しているからですが、「動物のヘモグロビンと類似した遺伝子を持っているマメ科植物は非常に特殊である」・・・というのは合理的に感じられます。しかしシロイヌナズナのゲノム配列が決定されてみると、なんと普通にヘモグロビン遺伝子が見つかりました(どうやら嫌気条件を感知したりするために使われているようです)。他にも根粒で発現していることが判明している遺伝子の大部分は、非マメ科植物のゲノムにも保存されていることが判明していきます。つまりマメ科植物にしかない「根粒菌共生するために必要な遺伝子」は、意外に少ないのかもしれません。

一方で根粒には、他の組織でも使われている遺伝子が高発現しています。根粒には共生を維持するために大量の光合成産物が流入します。これは主にスクロース(ショ糖)ですが、根粒菌は呼吸に使いやすいリンゴ酸などの炭素化合物しか受け取りません(至れり尽くせりの根粒菌2)。そこでマメ科植物は、リンゴ酸を作るためにホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ(PEPC) を高発現させています。PEPCは他の組織でも基礎的な炭素代謝を担っているのですが、「根粒で高発現する」という点が特殊なのですね。大学院で師事していた先生は、この点に着目していました。

大学院研究(2)に続く

 

*1 ゲノムや遺伝子、タンパク質の解説

生物は基本的にタンパク質、またはタンパク質によって作られた物質で出来ています。タンパク質はアミノ酸(20種類)が1列に並べられたもので、その配列によって異なる機能を発揮します。このアミノ酸配列の設計図が書かれているのがゲノムです。

一部のウイルスを除いて、ゲノムは基本的にDNA(A, T, G, Cの四種)という分子で書かれています(これも1列に並べられている)。設計通りにアミノ酸を並べる作業は、DNA配列の情報をRNAという分子でコピーして、それを元にリボソームで行われます。ちなみに狭義の「遺伝子」は、ゲノム上のタンパク質の設計図が書かれた部分を指します。

(これを「セントラルドグマ」と言いますが、なぜこのようなデザインになっているか考えると面白いです)

DNA情報を基にタンパク質を組み立てる時は、RNAという分子に情報をコピーして、それを元にアミノ酸を並べてタンパク質を作ります。RNAにコピーする操作を「転写」、タンパク質を作る操作を「翻訳」と言います。

 

 

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