エアープランツ

生徒達の研究

Tillandsia

葉が水を弾かない植物チランジア
~水は吸収されているのか~

中島玲菜さん

第58回日本植物生理学会年会高校生生物研究発表会 優秀賞 

第80回日本植物学会高校生研究ポスター発表会 学会長特別賞

「エアープランツ」として日本でもよく見かける植物は、イネ目パイナップル科のチランジア属(ハナアナナス属)に分類されます。上の写真はどちらもチランジア属ですが、形が大きく違います。原産地のブラジルやメキシコなどでは、電線の上に生えている衝撃的な姿を見ることができます(wikipediaの写真(重いのでwifi推奨)や胡蝶の夢というブログ)。チランジア属の多くは根をほとんど形成しないらしく、空気中から霧や朝露などの形で水分を吸収して生きているとされています。2年生だった中島玲菜さんは、この植物に矛盾を感じて研究を行いました。下記は中島さんが違和感を感じたキッカケとなる写真です。みなさんは何か感じますでしょうか??

 

私達が普段見かけるような植物の葉は、水を弾きます。これは葉の表面が疎水性のクチクラ層(油性のワックスが含まれる)で覆われているためです。陸上植物でクチクラ層は非常に重要な働きをしており、植物組織の水の蒸発を防ぐ役割をしています。

 

電線からぶら下がって生きられるようなチランジアにとって、水を得ることも重要ですが蒸発を防ぐことも重要なハズですよね? チランジアの葉の表面もしっかりとワックス層が備えられていると推測されますが、そのような状態で葉が水を吸収するというのは矛盾しています。本当にチランジアは葉の表面から水を吸うのでしょうか??

そこで中島さんは、実際にチランジアにスポイトで水を与えてみました。すると水滴は、まるで吸い込まれるように葉の表面に消えていきました。「葉の表面から水を吸う」という通説は間違っていないように思えますが、どうやってこんなことが可能なのでしょうか?

 

チランジアの葉の表面を顕微鏡で観察すると、白く見える部分はパラボラアンテナ(衛星放送を見るためのアレ)状の毛で覆われていることが判りました。中島さんはパラフィン切片を作製して観察したのですが、アンテナの中心が表皮の中に埋め込まれているような形をしています。ここから内部に水が吸収されるのかもしれません。

 

そこで色水をチランジアの葉に与えてみました。下の写真は赤い色水を与えた後で表面を水で洗って、カミソリで毛を軽く剃ってから観察したものです。アンテナの中心のくぼみに赤い水が溜まっているように見えます。「やっぱりこの部分から水を吸収している」と、私達は思いましたが・・・・・

 

赤い色水を与えた葉を切って断面図を観察したところ・・・・、なんと葉の内部には全く色水が入っていませんでした。長時間色水に浸した葉でも基本的には結果は変わりません(時々、表面の傷から吸収されて維管束が染まることはあります)。葉の表面から水が吸い込まれるときに、我々が用いた色素成分だけが吸収されていない可能性もありますが、水を吸っていない可能性が出てきました。

 

チランジアは根を持たないので、必ずどこからか水を吸わないと枯れてしまうはずです。葉から水を吸わないとすれば、どこか別の場所から吸収しているはず。そこで中島さんは、チランジア全体を色水の中に漬け込んで観察しました。すると根元の方が色水を取り込んでいるような結果が出てきました。

 

次に中島さんは、根元から内部に入った水が葉先まで運ばれるかどうかを調べました。そして葉の根元を切って色水に浸けると、チランジアは水を葉先まで運ぶことが確認されました。しかしここで中島さんは重要な事実に気が付きます。チランジアの葉の表面が水を吸い上げる力が予想以上に強いことです。葉の表面は水を吸いませんが、水を運ぶ力は強い。もしかすると、根元まで水を運ぶのかもしれません。

 

そこで今度は逆に葉先を色水に浸けてみますと、見事に根元に向かって吸い上げる様子が観察されました。

 

葉が重なり合っている根元の特に内側は、他の部分と比較しても水が蒸発しにくいと考えられます。この部分は蒸発を考えずに水の吸収を第一に考えることができるのでしょう。実際に毛も生えていない柔らかい構造になっています。

 

以上の結果から、チランジアの葉は全体が水を吸える構造になっておらず、根元だけが水を吸える可能性が高いことが判りました。葉の大部分はクチクラを発達させて水の蒸発を抑えることを優先しているようです。また表面のパラボナアンテナ状の毛は、いかにも中心部分から水を吸い上げるように見えますが、実際には水が毛の間を拡散しやすくするための工夫であると推測されます。

エアープランツの育て方に関する記述などを見ていますと、「水やりはスプレーなどで吹き付けるだけでは不十分で、しっかりと水の中にしばらくの間沈める」と書いてあることが多いです。水の中に沈めることで根元の方に水がしっかりと届くことが鍵なのでしょう。

今回、中島さんが解析したのは、パイナップル型のカプトメドゥーサと呼ばれる種です。紐状のウスネオイデスに関しては解析していませんが(比較的高価なので)、同じ戦略かどうかは興味があるところです。

 

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