テーマ探しのケーススタディ1

私が研究指導している横浜市の高校では、1年間研究をしてきた2年生の学内最終発表会が終了しました。そして新年度に研究を始める1年生がテーマを探し始めたようです。

 

「テーマを探す」というのは習得可能な技術です。逆に言えば、最初から上手にできる人は、ほぼ居ません。自分でベストだと思えるものを提示してみて、ダメ出しされて悔しい思いをしながら学んでいくものです。

研究を始めてしまえば、多くの労力と時間が消費されるので、“修正”で済む程度の変更しか効かないことも多い。始める前の段階で失敗を重ねながらも良いテーマを見つけることが重要です。

上手く行った例は他の項を参照していただければと思いますが、私が「それはどうかな〜???」と思う例を紹介していきたいと思います。

 

先日に生徒から相談されたのですが、

「麹菌の分泌するアミラーゼの量とpHの関係を調べたい」

とのことでした。

みなさんはこのテーマをどのように考えるでしょうか??

 

麹菌は、日本酒や味噌、醤油などの製造過程において、「発酵」のために用いられる微生物です。特に日本酒の醸造では、デンプンをブドウ糖に換える過程を担うのですが、そこで活躍するのがアミラーゼと呼ばれる麹菌の酵素です。

もちろん日本酒の醸造に関する研究は、多くの大学や研究所で行われていることは容易に想像できますし、麹菌のアミラーゼについては相当なレベルで解析が進んでいると推察されます。酵素の活性などはpHに左右されるので、pHとの関連も解明されているでしょう。「分泌量」という観点では、チャンスがあるようにも思えますが・・・・、実際には下記の理由(マニアックな話)で皆無に近いと予想されます。

おそらく・・・
アミラーゼの活性を厳密に測定するなら、麹菌から面倒な精製を繰り返して純度の高いアミラーゼを得る必要があります。しかし少し研究が進んでくると、精製せずに麹菌を破砕した粗精製液で直接活性を測定するでしょう。粗精製で活性を測る時に考慮しなければならないのが、「酵素自体の活性」と「酵素の含有量」です。したがって含有量は抗体などを使って必ず調べられている。「細胞外に分泌される量」は「細胞に含まれる量」とは違いますが、もともと麹菌がアミラーゼを分泌するのであれば、当然ながら菌を破砕せずに周囲の培地を検査するので、やっぱり研究され尽くしているでしょう。

もちろん実際に研究を始めてみたら、予想もしなかった意外な事実が明らかになって大発見につながる可能性はあります。しかし確率という点を考えると、可能性が著しく低いテーマはオススメできません。

 

ここで生徒さんに考えて欲しいのが、「何が自分にとって核心だったか?」ということです。

麹菌?

アミラーゼ?

アルコール発酵を効率化する?

まさか・・・pH??

例えば「アルコール発酵を効率化する」のが重要あれば、研究され尽くしている麹菌にこだわる必要も、アミラーゼによるデンプンの分解に注目する必然性もありません。

この生徒さんの目的は飲料としてのアルコールではなく燃料としての利用なので、食用には絶対に適さないような微生物(白癬菌とか?)で、しかもアルコール発酵の能力が高いと思える根拠があれば申し分ありません。その原因が「アミラーゼの分泌量が多い」ではなくても、全く問題は無いでしょう。

ここまで考えた上で私の場合は、そのような微生物に心当たりが無ければ、そのような微生物の情報を得るまで、この方面の研究を凍結します。しかし「自分が求める微生物」が明確にしてあるので、関連する情報を目にすると、すぐに気が付きます。

(高校だけが研究の場ではない)

 

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