社会学系テーマの助言

アイデアの見つけ方

今年に入ってSDGsなどの社会学系のテーマにアドバイスする機会が増えてきました。私はもちろん自然科学系の研究者であって専門では無いのですが・・・・、考えるコツも生徒さん達の迷走するパターンも改善方法も、「研究」から学べる事とほとんど同じです。以下の点に注意しながら本気でアプローチしていただければ、高校生の間には成果は出なかったとしても、将来に本当に問題を解決できる実力が養えると期待しています。

 

1. 自分にとっての問題の核心を見抜きましょう (最重要)

SDGsでは、例えば「子供の貧困」や「飢餓をゼロにしよう」などの大きなテーマが17分野設定されており、その中で自分が貢献できる課題を見つけて取り組みます。これらの問題というのは、現時点で大人の専門家や国家レベルが取り組んでも解消されていない問題ですよね? 高校生には経済力・技術力の点でハードルが非常に高い。「無理」「不可能」とは全く思いませんが、少ない戦力・資金でも解決したり貢献出来るように、問題の核心を見極めましょう。核心に対して集中的にアプローチすれば、高校生の力でも解決できる問題もあると思います。

例えば以前に「発展途上国の作物は安く買いたたかれていて、労働者が貧しい暮らしを強いられている。そこで作物の商品にならない部分(食べられない茎とか葉)を商品化することで、良い暮らしができるようにしたい」という相談を受けました。立派な話なんですが、問題の本質は「安く買いたたかれていること」なので、せっかく商品化するアイデアがあっても買いたたかれては意味がありません。むしろ商品自体が正当な価格で取引されることが必要です。また、プランテーション農場の経営者が貧しい暮らしをしている訳では無いので、労働者に適切に利益が分配されないと、本来の目的である「労働者が貧しい暮らしを強いられている」ことを全く改善できません。つまり商品にならない部分を商品化しても、目的を達成できないのです。

これを指摘した上で考えさせました。彼は解決法が「政治」の部分にあることにたどり着きましたが、彼の興味が「政治的手法」にはありませんでした。話合ううちに、彼の最初の興味の本質が「使われていない部分を有効利用すること」であることが判明したので、貧困問題から離れて彼はアプローチをしているようです。

研究でも「仮にその実験が100%成功しても、本来の研究目的には全く関係無い」という例を見かけますが、その教訓の応用ですね。他にも「清潔な飲料水の確保」というテーマを何度か相談されたことがありますが、具体的な場所によって最良の対策は異なるはずです。漠然と考えると、あらゆる地域の全ての状況で通用しなければなりません。しかし例えば「北アフリカ沿岸部(適当です)」などと場所を絞って調べれば、そこでしか通用しないかもしれませんが、高校生の力でも貢献出来るアイデアが浮かぶかもしれません。

 

2. 現状を正確に分析してリアルな解決方法を考えましょう

そもそも世界が愛情と思い遣りに満ちていて、多くの人がボランティア精神に基づいて生きているならば、社会問題の多くは最初から存在しません。したがって他人が善意に満ちていなくても、規範意識が高い人ばかりでなくても解決する方法を考える必要があります。「ゴミのポイ捨てをしないように呼びかける」「ボランティアを呼びかける」「防災意識を高める」などは、普通に応じてくれる人は既に行動しているでしょう。対象を「規範意識の薄い」「あまりボランティアに興味がない」人達を想定して考えるべきだと思います。他人の「善意」は、期待はしても良いですが、計算に入れて作戦を立てるべきではないでしょう。研究でも「思い通りの結果になった場合」のみを考えて実験する人が居ますが、ほとんどの場合は頓挫しています。

 

3. 具体的に実現の目処が付くアイデアでなければならない

「ドラえもんが居て道具を自由に使わせてくれるなら・・・」というのは、もちろんアイデアとして成立しません。以前に「アレルギーの治療方法を開発する」という課題を相談されたことがありますが、その具体的な方法はこれから考えるとのことでした。もっとも肝心な部分に自分のアイデアがあってこそ、プロジェクトとして成立します。そこが他人任せであれば、それは「ドラえもんが居たら・・・」と同じです。さすがにプロの研究者でこのような研究は見たこと無いですが・・・。

 

4. 疑似科学に惑わされない

間違った情報を基に社会問題にアプローチすると、下手をすると甚大な被害をもたらします。高校生のよくある勘違いは、「天然物は安全」「人工物は危険」です。天然のフグが作ったテトロドトキシン、天然のトリカブトという植物、もちろん猛毒です。ハーブなど長年に渡って人間が試してきたモノでも、例えばネコにとって有毒だったりします。逆に人工物が病気を治したり健康を維持するために重要な例も、薬局や病院に行けば山ほど見つかるでしょう。「デトックス」も注意が必要です。フワッフワの説明で納得している人が多いですが、実際には科学的に否定されているものが大部分です。

以前に「人工物で川が汚染されているので、天然物で石鹸を作って環境への影響を減らす」という課題を相談されたことがあります。洗浄効果が充分あった上で分解しやすい成分で石鹸を作るのは有効ですが、それが天然物なのかはケースバイケースです。人工物でも分解しやすいものは沢山ありますし、天然物でも分解しない有害なものもあると思います。

研究分野にも医学にも、残念ながら「疑似科学」を信じている人も居ます。科学というよりも「宗教」に近いので、論理的・理性的に議論するのは難しいですが・・・。「教授」「医者」という肩書きがある分、一般の人には見分けが付きにくいので厄介ですね。

宗教は信じることが基本だと思いますが、科学は疑うことが基本です。大勢の研究者が疑って検証して、その上で認められたものが「科学的根拠」です。提出された実験を検証することが多いので「ねつ造」には弱いですが、重要なことは疑った研究者が確認しますので、時間はかかっても結局は正されます。

 

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