防御と共生の進化 6

防御と共生の進化

フタバネゼニゴケは1コピーのCERK1遺伝子を保持していました。マメ科植物の研究で見つけた共生応答の起動に重要なYAQ/YAR配列(植物の敵と味方 〜承〜〜転〜 3)の有無を調べてみると、このフタバネゼニゴケのMpaCERK1に見事に保存されています。

しかし配列は保存されていても、共生を起動する能力が無いかもしれません。そこでミヤコグサのnfr1変異体の相補実験を行ったところ、実際にミヤコグサNFR1の細胞内ドメインの代わりができることを証明しました。つまりフタバネのMpaCERK1にも共生の機能があると推測されます。

我々はすでにフタバネゼニゴケでキチン防御応答が起こることを観察しています(防御と共生の進化 4)。これはMpaCERK1が起動している可能性が高い。つまり防御と共生の二重機能はコケ植物でも保存されていると推測されます。これを明確にするために、フタバネゼニゴケでMpaCERK1を破壊した株の作出を2012年頃から目指しているのですが・・・・

 

以前に書いたように、ゼニゴケの場合は大量の胞子を使って遺伝子を狙い撃ちで破壊することができます。当然ながらフタバネゼニゴケも同じ方法を使うつもりだったのですが・・・、フタバネゼニゴケに胞子を作らせるという段階で予想外のトラブルに陥ります。なんと胞子を作らせることができないのです!!

ゼニゴケをモデルとして世界に広めている京都大学の河内孝之先生のグループは、試行錯誤の末に植物が普通は光合成に使わない遠赤色光を使うことで、生殖器を誘導して胞子を作らせることに成功しました。しかし同様の方法ではフタバネゼニゴケは全く生殖成長に移行しません。

フタバネゼニゴケも自然界では普通に胞子を作っています。ただし、モデルのゼニゴケ(Marchantia polymorpha subsp. ruderalis)はほとんどの季節で胞子を作るのに対して、フタバネゼニゴケを含む多くのコケ植物は年に1回だけ決まった季節に胞子を作ります。コケ植物の生理生態に詳しい広島大学の嶋村正樹博士によると、フタバネゼニゴケは晩秋または初冬に生殖器の傘の部分(雌器床または雄器床)を作り、春になると柄の部分が伸びるようです。実際に胞子を形成するのは5月頃らしいです。これをヒントに考えつく限りの色々な条件を試しているのですが・・・・。遠赤色光を当て続けると、床を形成せずに柄が伸びてくることは判っています。しかし肝心の床を形成する条件は、今だに判りません。ちなみに嶋村博士から送って頂いた生殖器を形成している野外のフタバネを観察していると、床を形成せずに柄が伸びているものが多数観察されます。

追記:「フタバネ」という名前は、受精しなかった雌器床が円形の傘ではなく、羽根を広げたような傘を形成することに由来するそうです。(上の写真の左下)

 

防御と共生の進化 7 end

 

 

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