ウサギゴケ

生徒達の研究

Utricularia sandersonii

地中で捕食をするウサギゴケ

米田美桜さん、舛村康成さん

第79回日本植物学会高校生発表 最優秀賞

第57回日本植物生理学会高校発表会 最優秀賞

 JSEC2016 花王特別奨励賞

米田さんはもともとコケ植物に興味がありましたので、「何か面白い特徴をもったコケ植物を探してきなさい」と助言しました。その結果、非常に可愛いウサギの形をした花を咲かせる「ウサギゴケ」を見つけてきたのですが、花が咲いている時点でコケ植物ではないと二人で大笑いしたところから研究が始まりました (実際は被子植物でシソ目タヌキモ科)。

タヌキモ属は全て食虫植物らしく、しかも良く知られているハエトリグサやウツボカズラなどと異なり、多くは水中に捕虫器を形成します。この捕虫器は中空の袋状で、普段は密閉されており、中から水が排出され続けているそうです。その結果、内部は陰圧になるのですが、ミジンコなどが触れると蓋が開いて水ごと吸い込むという記述が見つかりました。youtubeに捕虫の瞬間が公開されていますが、本当に見事です。

ウサギゴケはホームセンターなどで土に植えられて販売されています。しかもwikipediaを見ると、原産地の南アフリカでも崖などに生えているそうです。つまり陸上植物なのですが、私達はウサギゴケが土の中で、水中と同じように水圧(または空気圧?)を使って獲物を捕まえることができるか疑問に感じました。しかしインターネット等でいくら調べても、この疑問に答えてくれる記述はありません(食虫植物の専門研究者に聞いても同様です)。

米田さんがウサギゴケを掘り起こして地下茎を調べると、下のように捕虫器は形成されています。でもウサギゴケの捕虫器は水棲植物であった頃の名残りで、現在は使われていないのかも知れません。

 

しかし米田さんが土に植えているウサギゴケの捕虫器を観察したところ、内部に様々な虫が捕まっていました。その一部は生きており、観察の直前に捕まったと推測されます。したがって陸上でもウサギゴケは捕虫していることが判りました。

 

水中ではないのに、ウサギゴケはどのようにして昆虫を捕まえているのでしょうか? 米田さんは実際に虫が捕まる瞬間を捉えようと考えましたが、捕まっている虫の種類は判らないし、これを用意するのは大変です。ちょうど同級生の桝村さんが、フタバネゼニゴケに蓄積するペリルアルデヒドの殺虫効果を調べるために線虫を培養していました。そこで米田さんと桝村さんを引き合わせて、共同研究することを提案しました。

 

とりあえず寒天プレート上でウサギゴケと線虫を共存させると、翌日にはプレート上から全ての線虫が消えていました。一方でウサギゴケの捕虫器は茶色の水で満たされており、良く見ると一部は内部で膨大な数の線虫がウネウネと動いています。捕虫器をメスで切り開くと、内部から線虫が出てきましたので、全て食べられてしまっていたのです。またスライドガラス上で線虫とウサギゴケを共存させて観察していると、捕虫器に線虫が集まってきて、一部は捕虫器の入り口に頭を突っ込んで入ろうとしています。下の動画を撮った時は、既に内部に膨大な数の虫が詰まっているせいなのか、入ることができませんでしたが・・・。

 

米田さんは誘因する物質について調べました。糖類を誘因物質と想定してベネジクト染色を行いましたが、この方法では検出できませんでした(一部の糖は検出できない)。しかし基礎生物学研究所を見学したときに、博士課程の学生から粘液性の糖類がトリパンブルー染色で染まるとの情報を得て試した結果、捕虫器の入り口に生えている毛の先端の細胞が綺麗に染色されました。面白いことにトリパンブルーで染色される細胞は、入り口がもっとも密度が高く、離れるにしたがってまばらになります。また、入り口以外の部分にも点々と染色される細胞があります。

濃度差を付けることで、

  1. 捕虫器付近に獲物を集める。
  2. さらに入り口付近におびき寄せる
  3. 内部に誘い混む

という戦略だろうと米田さんは推測しています。

 

これらの情報を総合すると、どうやらウサギゴケは誘い込み型の捕虫器を備えているようです。水中で実験すると吸い込むことも確認しているので、おそらくは吸い込みと誘い込みの両方の能力を持っているのではないでしょうか? これを確認するために捕虫器に穴を開けて観察などを行っていましたが、このアプローチ自体は色々と苦労していて、結局は受験によって中断しています。

 

ウサギゴケが誘い込み型の罠を持っていることが判明する前後から、米田さんは捕虫器の構造を徹底的に調べていました。タヌキモ属の捕虫器は大きい物だと1cmくらいになるのですが、ウサギゴケは2mmほどです。これを顕微鏡下で器用にメスで切り裂きながら観察していました。

 

また、内部にインクを注入して構造をハッキリさせるなどの工夫も行っています。

 

これらの情報を合わせて、米田さんはウサギゴケと水棲のタヌキモの捕虫器の見事なスケッチを行っています。誘い込み型のウサギゴケの捕虫器と、吸い込み型のタヌキモの捕虫器の構造は、詳細に観察してみると大きく異なります。捕虫前後の構造変化まで捉えることができていませんが、構造の違いは機能に結びついているだろうと米田さんは考えているようです。

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以上のように、幼少の頃から生物を見続けた経験が豊富で直感に優れている米田さんと、論理的で幅広い知識のある桝村さんのコンビは、結果的に大きな相乗効果を示して研究を大きく進展させました。

なおこの研究はモデル線虫のC. elegansを分与して下さった法政大学女子高等学校の鈴木恵子先生や、最新型の顕微鏡のデモを高校で行って下さった株式会社キーエンスのご協力・ご厚意に助けられながら進めました。

コメント

  1. naka より:

    sugoinaa

    • 匿名 より:

      ウサギゴケがどうやって捕食するか
      気になってました。

      ありがとうございます。